平成20年のリーマン・ショックに対応するために平成21年12月に施行された「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(「中小企業金融円滑化法」いわゆる「モラトリアム法」)が2回の延長を経て,平成25年3月31日をもって期限切れを迎えます。
この法律は,金融機関に対する債務の弁済に問題がある中小企業から当該債務の返済負担軽減の申し込みがあれば、金融機関は「中小企業者の事業についての改善又は再生の可能性その他の状況を勘案しつつ、できる限り、当該貸付けの条件の変更、旧債の借換え、当該中小企業者の株式の取得であって当該債務を消滅させるためにするものその他の当該債務の弁済に係る負担の軽減に資する措置をとるよう努めるものとする」という内容となっています(同法第4条)。
この法律により,金融機関への債務返済に苦しむ中小企業を一時的にでも救済することになり,また金融機関にとっても,融資の返済に問題をかかえる企業でも経営改善等の見込みがあれば当面「正常先」として取り扱うことができるため,通常「破綻懸念先」や「要注意先」として扱われるような企業に対しても,政府のお墨付きの下,貸倒引当金を積む必要がなくなり,新たな融資すら行えるような状況を提供することにもなりました。
一方で,通常ならば倒産するような企業を延命させたからといって,猶予期間中に劇的な経営状況の改善がなければ,隠れた不良債権が積み上がることになるだけであり,この法律は問題を先送りするだけであるとの批判は法律制定前から述べられていました。
それでも,猶予期間の間に,景気動向がよくなり個々の中小企業が経営状況を改善できれば,その後この法律が失効したとしても,返済を行えるような状況になるかもしれません(当然,それを意図してこの法律は制定されています)。
しかし,長引く景気低迷や東日本大震災など日本国内の問題に加え,欧州の債務危機に見られる世界的な不況もあり,景気動向が回復する兆しがなかなか見えない中,実際は返済猶予をしてもらっても経営を改善できない中小企業が多数あるようです。
とすれば,この法律だけでは中小企業を救済することは難しいといえ,仮にこの法律を延長したところで状況が改善する見込みはなく,「隠れ不良債権」が増加する懸念の方が高いといえます。
したがってこの法律の適用が終了することはやむを得ないと考えられますが,このままなにもしなければ,法律の期限切れとともに「要注意先」や「破綻懸念先」あるいは「破綻先」となってしまう中小企業が出てくる事態は避けられないと考えられます。
そこで,期限切れとなる前に,新たな事業展開を行うための支援など個々の中小企業の経営改善に向けた本格的な取り組みが急務な状況になっています。